お仁の一期一筆

第七十五筆「超人たちの五輪」

助走から飛行へ〇・二~〇・三秒間で切り替える早さが勝負となるスキージャンプ。〇・七秒の滞空時間内に四回転し、二〇〇㌔・㌘にもなる衝撃を片足で受け止めるフィギュアスケート…。一㍉・㍍の刃を精密操作するスピードスケート…。

韓国・平昌で始まった第二三回冬季五輪にあわせ、読売新聞が六回にわたって掲載した企画〈超人の科学〉。選手たちが挑んでいる極限の技や人間の身体能力の凄さを解説していた。

飛翔競技と言われるスキージャンプ。低い姿勢で空気抵抗を減らしながら時速八〇~九〇㌔・㍍で滑走し、ジャンプ台を飛び出した後は、前傾のV字姿勢や手のひらを下に向けて開くなど空気を味方にして揚力を確保する。スタートから着地までの時間は、わずか約四秒。

四回転新時代と言われる男子フィギュアスケートも凄い。四回転ジャンプ成功の条件は、滞空時間と回転速度。宇野昌磨選手の滞空時間は〇・七秒、高さ五五㌢、回転速度は毎秒五回転だという。四分四〇秒のフリー種目は陸上の一五〇〇㍍走を必死に走りながら、その間に障害物をこなすのと同じぐらい過酷な運動であることも知った。

オリンピックは人間の身体能力を極限まで鍛えた選手たちの晴れの舞台。そして、その努力を存分に発揮できる原動力は〈報恩の心〉とも言われる。お世話になった人への恩返しの心が、大舞台での勝負を決すると聞いたことがある。

現代という『時』への恩、出会った『人』への恩。〈恩を知る人は強い〉。凡人である我。長年の戒めの言葉である。

第七十六筆「六〇代の若者」

新聞をめくった。広告紙面の見出しが、ど~んと目に飛び込んできた。〈六〇代の若者たちへ〉とあった。秀逸なコピーである。言葉でいのちが弾んだ。さらに〈この先をどう生きるか。しまっておいた夢を取り出してみないか〉とあった。

先月二〇日の朝のことである。紙面一頁を使った栄養補助食品の広告。北海道富良野市を舞台にしたドラマ『北の国から』などの作品で知られる八二歳の脚本家・倉本聰さんから成熟した大人世代に贈るメッセージともあった。

NHKとけんか別れをして東京を捨てた倉本さん。テレビ界を干され、札幌で三年ほどの無頼生活を送った。富良野に移り住んだのは四二歳。森は八〇年を寿命にして変わるというが、ちょうど富良野のシラカバが滅びる時期だった。森の世代交代を見ていると、人間社会の変遷が写し絵のように感じたという。

創作の〈作〉は知識と金を使い、前例に倣ってつくること。〈創〉は同じつくるだが、金がなくても、知恵によって前例のないものを生み出すことである。

読売新聞の『ミドルらいふ』欄で倉本さんが、かつて語っていた至言も思い出した。広告面では「一人の人間が誕生して成長し、やがて老いてフェードアウトしていく中で、大切なのは長く生きることより、どのように生きるかということ」と指摘していた。

六〇代半ばを超えたが、我は若者。そう思うだけで、わくわくしてくる。栄養補助食品の力は不用である。不思議だ。暫くは我が人生の舞台で〈六〇代の若者〉を演じようと思う。

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