お仁の一期一筆

第五十三筆「人工知能」

 クイズに答えてほしい。大きな湖に、毎日二倍に増える浮草が発生した。六十日で浮草は湖面の半分を覆うまでに成長したが、さて、浮草がこの湖の全面を埋めるのは何日後か。答えは翌日である。

 このようなことが、人工知能の世界で起ころうとしているという。二〇四五年問題と言われ、人工知能が人類をしのぐ年と予測されている。人間と人工知能との主客転倒。SFの世界の話などではない、との指摘があるのも事実だ。

 IBMが開発した人工知能の〈ワトソン〉は、二〇一一年に米国のクイズ番組で、人間を相手に優勝した。普通の言葉で出題された問題の意味を理解したうえでの即答だったという。

 人工知能が自分のプログラムを、より適切な形に置き換えるなどして経験を基に賢くなる機能を備え、自ら学び始めているのである。赤ちゃんが転べば母親が「痛かった?」と語りかける。赤ちゃんはその時の表情を見て、心の動きを学んでいる。

 発達心理学の知見だが、人工知能がこうした〈ココロ〉まで会得する可能性も捨てきれないのが、現実のようだ。人工知能がココロを持った時、私たち人間はどう対応するのか。今から考えておかなくてはならないのではないだろうか。

 先端科学技術は鋭利な諸刃の剣である。人工知能を使って良い社会をつくることもできるし、悪用のリスクもある。インターネットの出現で、地球が宇宙に浮かぶ一個の脳になろうとしている時代。人工知能との共生をどう築くか。我々人間の知恵が問われている。

第五十四筆「癌との戦い」

 世の中に/たとへむ物もなかりけり/春のさくらの/花のにほひは(本居宣長)。試練の冬に耐えて、根を張り、つぼみを育て、万朶の花を咲かせる桜。花が咲く直前に限って染色用のエッセンスが樹皮から抽出できるそうだ。桜は木全体で花びらが最高のピンク色に染まるように全精力を傾けている。感動的である。

 我が人生もそうありたい。今年二月下旬に行った直腸と胃の癌摘出手術前に決意した。多くの人から我が生命力が滝の如く溢れ出るような励ましも頂いた。鳩尾から約三十㌢開腹しての手術は十時間に及んだ。二十㌔近く痩せたが、術後の経過は順調である。退院後は最低六千歩の歩行を日課に体力の回復に努め、今月から会社にも顔を出し始めた。

 とは言っても〝慣らし運転〟である。しばらくは、ぼちぼち、あせらず、体調と相談しながらとなりそうだ。念のための抗癌剤の服薬も始まったし、胃も三分の一を切除したことから、食事は〈腹六分目〉が目安。胃の負担を軽くするため、噛む回数を一気に増やしたことから、顎が痛いといった思わぬ副作用も体験した。排便機能が安定しないのも、やっかいである。

 生老病死は誰人も免れることができない厳しい現実である。末期癌ではなかったが、己の内面の葛藤を含め今積み重ねている体験は貴重な財産である。病を持つ人の痛みや生命の重みも改めて実感する。

 勝負の鉄則は〈必ず勝つ〉と心に決めること。病魔との勝負も同じである。来年の春には爛漫の桜を愛でながら勝利の美酒で乾杯。今の想いである。

※ 2016年執筆のコラムです。

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