お仁の一期一筆

第五十一筆「目の文化」

サルにとって相手をじっと見つめるのは軽い威嚇になり、強いサルの特権だという。弱いサルは、見つめられたら決して見返してはいけない。挑戦したとみなされて攻撃を受ける羽目になるからだという。

ゴリラ研究の第一人者・山際寿一京大学長がエッセーで触れていた。強いサルは自分の優位性を確認できれば、それ以上威嚇することはないそうだ。翻って人間はどうだろうか。なかには眼を付けたとすごむ輩もいるが、見つめるという行為はサルとは違い、威嚇にはつながらない。むしろ目は心の鏡であり、視線を交わすことが重要なコミュニケーション手段となっている。

特に日本人は〈口の文化〉より〈目の文化〉の方を大切にする視覚的国民と言われる。季節の変わり目。縁の切れ目。二枚目。跡目。目方。役目。目的。目録…。日本語に「目」の入った慣用語が目に余るほど多いことからも納得できる。

だが、その豊かな心を育んできた視線による対面の世界が崩れかかっているように思える。毎日インターネットやメールをのぞくために多くの時間を使い始めた昨今。喫茶店などでの恋人同士も、互いに携帯端末を操作、会話もない。ファミリーレストランの家族にも同じような光景が見られる。

人と視線を合わせるのが億劫となっているようにも見える。その先は、サルのような視線を合わせない、優劣社会が待っているようで不安だ。〈目で生まれた愛のみが魂にまでいたる〉という言葉もあるが〈目の文化〉は大切にしたい。

第五十二筆「プロ野球開幕」

これから落ち着かない日々が始まる。歓喜の拳を突き上げたり、テレビのスイッチを切ったり、ブツブツ文句を言ったり、深酒をしたり…。プロ野球公式戦は今月二十五日、セ・パ同時開幕した。リーグ優勝の行方やSMBC日本シリーズの覇者も、今から気になる。

根っからの野球ファンであり、巨人ファンである我。昨シーズンは長打力不足で課題となった打撃の底上げは大丈夫なのか。今季から采配をとる高橋由伸監督の選手起用にも目を離せない。一九六五年から日本シリーズ九連覇を達成した名将・川上哲治監督を目指してほしい。欲深い想いも膨らんでいる。

ただ、グラウンドの主役は個人事業主である一人ひとりの選手。最近、気になるのが対戦相手の選手同士に漂う和気あいあい感。殴り合いのケンカをけしかけているわけではないが、とても戦をしているようには見えない。この時代、こんな古臭いことを言っていると笑われそうだが、緊迫感のある魂の戦いを見せてほしいものである。

それに身体に違和感があれば、すぐベンチに引っ込む。けがをしては元も子もないということだろう。投手の完投勝利の少なさも目に付く。そこそこ結果を出すが、無理はしない。高額な年俸に胡坐をかいているとしか思えない選手もいる。

相手投手の癖は、味方の野手にも教えない。それが野球を飯のタネにしているプロの生き様であろう。仲良しクラブのような試合は、興味が薄れる。打つか、抑えるか。手に汗を握るような選手一人ひとりの真剣勝負を今年は期待したい。

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