お仁の一期一筆

第四十九筆「地域鉄道の旅」

〈千里の旅、万巻の書―。旅とはいろいろに考えられよう。しかし私は、旅とは、さかさまな国で自分を発見すること、後悔の向うに希望を見出すこと、そして人間の世界は、かくも広く、かくも多様で、かくも豊かなのだということを実感することだと思う。だからこそ、千里の旅は万巻の書に値するのである〉

評論家・森本哲郎の言葉である。駅のコンコースなどで旅を誘うパンフレットが溢れているが、国内の地域鉄道を巡る旅などは、穴場かもしれない。なにしろ全国には九十五社もの地域鉄道会社があり、総営業距離は三六七三㌔㍍に達するという。

最も営業距離が長い鉄道会社は、青森県の青い森鉄道で一二一・九㌔㍍。二番目は熊本県と鹿児島県をつなぐ肥薩おれんじ鉄道の一一六・九㌔㍍。最も短いのは、和歌山県の紀州鉄道の二・七㌔㍍という。

猫の〈たま駅長〉で人気を呼んだ和歌山電鐵や東日本大震災から復旧を遂げて全線運転を再開を果たした岩手県の三陸鉄道なども地域鉄道会社が運営している。世界遺産に登録された富岡製糸場を沿線に持つ上信電鉄などもある。

いずれも、そこで暮らす人たちにとっては大切な生活の足であり、その土地を訪れる旅人には、地域とともにつくられてきた風景に出会うこともできる。地図で路線を探すだけでも楽しくなってきた。

地域鉄道には無人駅も多い。停車場に一人佇み、人生を思索するのもよし。深呼吸するのもよしである。万巻の書に値する再発見があれば最高だ。

第五十筆「免許返納の特典」

特典。辞書・広辞苑には〈特別の恩典。特別の待遇〉の意ともある。購入商品の割引や自宅までの無料配送、美術館での優待サービス、商店街での粗品進呈…。さて何の特典だろう。実は高齢者が運転免許証を自主返納した場合の特典である。

高速道路を逆走する。アクセルとブレーキを踏み間違える。交差点で右を見たつもりが見ていない。警察庁が、高齢運転者の事故対策として、運転免許証の返納制度を導入したのは一九九八年。加齢に伴う身体機能や認知機能の低下で、運転に不安を感じる高齢運転者や事故を心配する家族などの相談が多く寄せられたことなどから制度化された。

高齢返納者は身分証明書として渡される運転経歴証明書を提示すると、免許返納促進などを目的に設けられた各地の自主返納サポート協議会などに参加する百貨店などの特典を受けられることになっている。

都内では帝国ホテル東京直営のレストランとバーラウンジで一〇%割引。三越伊勢丹や高島屋での買い物は自宅への送料が無料となる。横浜市交通局では、定期観光バスの運賃を一五%割引いている。詳しくは警視庁や各県警のホームページなどで確認してほしいが、こうしたサポートはありがたいと思う。

ふと思い浮かんだことがある。納税額に応じた特典などはどうだろうか。特別養護老人ホームの優先入居など将来の恩典を考えれば、納税意欲が増すかもしれない。ただ特典格差といった新たな問題も浮上しそうだ。まあ、免許返納特典ぐらいが無難かもしれない。

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