お仁の一期一筆

第四十三筆「利他の経営者」

わが社の社員はスーパーなどの駐車場に車を停めるとき、入口から一番離れた所に停めて、店の入口までスタスタ歩く。そうすれば、店の入口近くには駐車の場所ができるので身体の不自由な人や妊婦、お年寄りなどへの親切につながる。 

こんな社員のエピソードを〈かんてんぱぱ〉ブランドで知られる寒天製造会社「伊那食品工業」(本社・伊那市)の塚越寛・代表取締役会長が、自著「いい会社をつくりましょう」(文屋発行)で披露していた。己を振り返り赤面した。

〈社会人として立派かどうか。その物差しは、いかに人の役に立っているか。人をどれだけ幸せにしたかです〉とも述べている塚越会長。〈社員の幸福と社員の幸福を通じての社会貢献〉を経営目的に掲げ、〈いい会社をつくりましょう〉が社是。

また、〈八の字経営〉と名付ける時流に翻弄されず、緩やかな末広がりの成長を続けながら永続する企業を目指しており、〈遠きをはかる者は富み/近くをはかる者は貧す〉という江戸末期の実践的思想家・二宮尊徳の遺訓を座右の銘としている。

年功序列の原則を維持し、社員の評価は能力差ではなく、努力の度合いで評価。労働組合はなく、経営者と社員は同じ山の山頂を目指している「同志」の間柄とも語っている。

相手も良し、自分も良し、お客様も良しという近江商人の〈三方良し〉の商道を追い求める塚越会長。会社の〈最適成長率〉を冷静に見極めながら、人の幸せに徹する〈利他〉の経営思想には心から共感を覚える。お奨めの一書でもある。

第四十四筆「申年の決意」

箱根駅伝、青学大が連覇。穏やかに迎えたかに見えた新たな年。ところが、サウジアラビアがイランとの国交断絶を発表。さらに北朝鮮も「水素爆弾の実験に成功したと発表した。長野県軽井沢町の国道でスキー客を乗せたバスの転落惨事や都心に積雪をもたらした南岸低気圧の通過もあった。

騒がしい申年の始まりである。株の世界に伝わる格言では<申酉騒ぐ>と言われているが、年初からの株の乱高下は、まさに格言そのものの動きである。

教科書会社は謝礼問題で揺れており、道路舗装各社は東日本大震災で被災した高速道路の復旧工事で談合があったとして、独占禁止法違反容疑で東京地検などの一斉捜索を受けた。SMAPの解散騒動もあった。

一年分の出来事が早くも集中した感じもするが、これからは国内的には参院選がある。国外では米国の大統領選やリオ五輪もある。<未来は、これから何が起こるかということに左右されるのではなく、我々がどうなりたいかを決め、その意志によって創り出すものである>という言葉がある。世の中の出来事や空気に翻弄されることなく、一人の人間として屹立と未来社会を創り出せということである。

人間を手段化し、人間性を踏みにじる社会の濁流に屹立と棹差す一筆でありたい。我の今年の決意でもある。

「迷いサル」「嫌な事サル」。百貨店の下着売り場には、申年の縁起物として赤い下着コーナーが設けられている。<申年は赤い下着で勝負>ということらしい。赤色の持つパワー。我が筆力アップにも繋げたい。

読売新聞購読案内

宮城県内読売新聞販売店一覧