お仁の一期一筆

第三筆「生きる刺激」

不老化処置を受けた国民は、処置後百年を以て生存権をはじめとする基本的人権は、これを全て放棄しなければならない。生存制限法。通称「百年法」と呼ばれる法律。不老化処置を受けた国民は、人口調整のため処置後百年で死ななければならない。老いずに生きることが幸せなのだろうか。

山田宗樹さんの第六十六回日本推理作家協会賞受賞作品「百年法上・下」(角川文庫)には考えさせられた。

西暦2048年。百年目の死の強制が間近に迫る。官僚は葛藤を胸に責務をこなし、政治家は思惑のため暗躍し、テロリストは力で理想の世界を目指す。男と女、母と息子。苦渋の選択を迫られる人間の進むべき道が問われる。

強制死を拒否した挙句、老いず生き続ける苦痛からの集団自殺。外見は若いままの母親が、強制死の前夜、最愛の息子との別れを惜しむ場面もある。

「やっぱり人間を信じよう」。最後のどんでん返しには、素直にそう思えたが、人間が幸せに生きることの意味を改めて突きつけられた小説でもある。

七十六歳の男が六十五年ぶりに故郷に戻る。再会した同級生五人との話題は病気や寿命など暗いものばかりだったが、互いに出した総額五千七百万円を最後に生き残った者がもらう黒野伸一さんの力作「長生き競争!」(廣済堂文庫)も読んだ後だけに、「百年法」の衝撃は、また大きかった。

死を見つめることは、生を見つめなおすことである。三冊の著書は、我に新たな<生きる刺激>を存分に与えてくれたようだ。お二人に感謝である。 (仁)

第四筆「愛コンタクト」

目角を立てたり、目を三角にするような事件や惨事が続く世の中だが、思わず目尻が下がる話題である。人間と犬は見つめ合う時間が長いほど、お互いの体内に安心感や信頼感が高まるホルモン「オキシトシン」が増えるという。麻布大と自治医大などの研究チームが、今月十七日付の米科学誌サイエンスに発表した。

目は口ほどに物を言うと言うが、情愛のこもった目は、口で言うのと同じくらい愛情を人にも犬にも伝えるということらしい。目と目で心が通う人と犬。犬は約三万年前から人間と暮らしてきたと考えられており、研究チームでは「なぜ犬が人間と長く生活を共にできたかを解く手がかりになる」と話しているという。

オキシトシンは、赤ちゃんに授乳する母親から分泌されるホルモンとしても知られているが、複雑で虚偽と欺瞞に満ち、毎日が試練の連続である実社会での人と人との間では、なかなか安心と信頼のオキシトシンが分泌される機会も少ないのが現実だ。

カラスのつがいは、何気なく巣を見上げた人間を敵と見なし、背格好や服装を記憶して、その人間が近づく度に威嚇や攻撃を繰返すというが、カラスのつがいのような人種が多いのも実社会の一面なのである。

目と目が合っただけで、「眼をつけた」と難癖をつけられたこともあったし、無視をすれば今度は「しかとした」と言われたこともあった。人と人には関係の難しさもあるが、オキシトシンが満ち溢れる社会を目指し、目と目で信頼を伝えるアイ(愛)コンタクトの術を磨きたいとも思う。
(仁)

読売新聞購読案内

宮城県内読売新聞販売店一覧